【０５３】

ルイは、久しぶりに社交界のパーティーに出席した。口直しにと、近くのホテルのバーに立ち寄った。座ったとたんに、さっきまでの緊張がとけて、酔いが出てきてしまった。しかし、ここは高級ホテルのバー。見苦しい格好はできないと、注文のカクテルを それなりに格好をつけて飲み終わった。
そこで、近くにいたボーイを呼んで、聞いた。
「俺は、しっかりしているよな。変に酔っていないよな」
「はい、お客さま。お酔いになっていらっしゃるようには お見受けできませんが」
「そうかい。じゃあ、服装に乱れはないな？それに ズボンの前チャックとかが 下りていないか？」
「そんなことは ございませんよ。お客さま」
「そりゃあ いかん。大変だ、いま 小便が出るところだ！」

【０５４】

メルルは、ある晩 フィアンセのシャルルと 友人宅のパーティーに招かれて参加した。とても雰囲気のいいパーティーで、彼女は大いに楽しんでいた。特に出された‘テタンジェ’は 彼女のお気に入りで、友人達と会話も進んだ。
ところが、途中でハプニングが起きた。参加者の一人が、下劣なジョークを始めたのだ。主催者のマダムは、他の参加者におもんぱかって、その客を退席させることにした。
そしたら、シャルルも 退席をしようとしている。
「うん、分かっているよ。僕は、彼の話の続きを聞きたいんだよ」

【０５５】

夫の精力激減に憤懣やるかたないマルグリットは、有名なセックス・カンセラーを訪ね、夫の精力回復のテはないか相談した。１回目、２回目、カウンセラーのアドバイスは 効果がなかった。
怒ったマルグリットに、カウンセラーは「貴女のようなケースで、殆ど 皆さん 効いたんですけれどねえ。それでは、めったに教えていないんですけれど、特別にインド人の祈祷師を紹介しましょう」
祈祷師は、マルグリットに厳かに言った。「先ず ご主人に　この蛇精の薬を入れてカクテルにして飲ませなさい。そして、ご主人が眠ったら、この蛇使いの笛を吹きなさい。貴女の願いは叶います」　そして、笛の吹き方を教えてくれた。
帰宅したマルグリットは レシピ通りのカクテルを作り、風呂上りの夫に飲ませた。夫は、バスローブのまま居眠りを始めた。部屋の明かりを消して、笛を静かに吹き始めた。薄暗がりの中で、白いバスロ－ブの部分が動き始めた。何か 棒状のもののようだ。マルグリットは、思わず息を呑んだ。
その時、夫が半分目を覚まして、「おい、バスローブの紐を 引っ張るな」

【０５６】

ビットリーノ子爵は、最近アジアのエスニック料理が気に入っていた。しかし、持ち前の悪口癖と、白人優位の偏見から、料理店のアジア人を つい“イエローモンキー”とか、“金の亡者”と口に出してしまい、勘定を踏み倒すこともあった。
大叔父のマルチーノ侯爵は、甥の悪口癖を心配して、厳重に子爵に注意した。さすが、子爵も 大叔父のご意見には頭が上がらず、以後 心を改めることにした。
ある晩、彼は 行きつけのアジアン・エスニック料理店に赴いた時に、店主に向って謝った。
「今までは、君達のことを馬鹿にしたような口を利いていたけれど、今後は 改めるよ。ごめん」
店主は、にっこり笑って応じた。
「タイヘン 結構ナリ。仲良ク シマシセウ。ワチクシモ、アナタノ ワインニ シッコ入レルノヲ ヤメルデスヨ」

【０５７】

王英智教授は、アルコール中毒の研究者。ある日、自分の研究室に入って驚いた。
なんと 研究に使っていたラットが、檻を食い破って外に飛び出して、同じ研究室で飼っていた蛇の檻に向って飛び掛っているではないか。
普段なら、蛇がラットを襲うことはあっても、ラットが蛇を襲うとは！
さすが、王教授も一流の研究者。冷静に周囲を見渡して 二度びっくり。
王教授自身が飲むための酒瓶が一本ころがって、ラットの檻の中に瓶の口が入りこんでいる。
ラットは、明らかに瓶の口からその酒を飲んだに違いない。
三度びっくりしたのは、鼠が口を利いた。だいぶ巻き舌で、
「こいつは、なかなか いけるぜ～。明日から、これにしてくれよ。参蛇酒がこれだけ効くとは思わなかったぜ。ウイーッ！」

エルバ島に幽閉されていたナポレオン皇帝が返り咲いたが、いかんせん 年齢による衰えは隠せなくなっていた。
ある夜のチェイルリー宮殿でのパーティーの最中、皇帝の姿が見えなくなった。
侍従達が心配して探したところ、会場の脇の小部屋の椅子に座って、寝込んでいるのを見つけた。
寝起きの悪いナポレオンの癖を知っている側近達は、なんとか自然に目覚める方法はないかと思案した。
「そうだ！陛下は、アンチョビとマデイラの組み合わせがお好きだから、それらの匂いをおかがせしたら、ご機嫌よくお目覚めになるかもしれない！」早速、用意して、眠っているナポレオンの鼻先に持っていくと、
「ジョセフィーヌや、朕は 今夜 とても疲れているのじゃ！」

ブランディーは、長年樽に入れて熟成させるが、オーク材とはいえ 木目から僅かながらに空気を通すので、中の酒は僅かずつだが蒸発して減っていく。これを 酒造家は「天使の取り分」と表現している。
ピエールは、あるコニャックの熟成倉庫の管理人であった。この「天使の取り分」現象を利用して、実は各樽から少しずつ失敬するのが常であった。彼は、管理人としては優秀であったし、この掠め取り以外は特に悪いこともしなかったので、死後 天国に送られた。
天国に着くと間もなく、入国祝いのパーティーに招待された。パーティーでは、下界と同様に、美酒・美食がふんだんに振舞われた。美しい天使達が、舞い踊りながら酒を、料理をサービスして廻っていた。
ところが、ピエールには どの天使も酒をついでくれない。待てども、待てども、誰もついでくれない。そこで、ピエールは、近くにいた案内役の聖アントニオに“何か理由があるのか”尋ねた。
「ちょっと待って下さい」と言ってどこかに消えた。暫くして戻ってきて、「ピエールさん。貴方は、お酒の飲めない人として登録されていますよ。だから、どの天使も貴方には酒をつがないんです」
「そんなことはありません。私は 生前 ブランディー作りに携わり、自分もお酒をたしなんでいましたよ」
「そうですか？日本の社会保険庁や国会議員と違い、天国では記録の付け間違いはないと思うんですがね。ともかく もう一度確かめてきましょう」
戻ってきた聖アントニオは、納得顔で、ピエールに告げた。
「入国管理カード記録掛の天使が、意識的に記録を書き換えていました。心覚えがありませんか？」

人里離れた山間の農家に 夫婦二人が住んでいた。ある晩、一人の屈強の旅人が 一夜の宿を頼んできた。
人の良い二人は、気持ちよく旅人を泊めることにして、自家製のワイン、ソーセージ、スープ、パンをご馳走した。
寝る時になったが、生憎 ベッドは一つしかない。主婦を真ん中に寝ることにした。
夜中に突然 納屋の牛が騒ぎ出したので、亭主は様子を見に出かけた。
その時に、主婦が旅人の手に触れて「早く、早く」。
旅人は、体の向きを変えて主婦に向って言った。
「有難う。本当にいいんですか？あの自家製のワインは素晴らしかった。もう一杯飲ませてもらいます」

蒸留したてのブランディーは90度と最終商品の倍のアルコール度がありますので、樫の樽で寝かせます。乾燥したセラーでは蒸発が速く、アルコール度が急速に下がりますが、舌触りの悪い物ができますので、湿度の高いセラーに置かれます。ＶＳとＶＳＯＰはそれぞれ最低3年および5年以上寝かしたものしか使ってはなりません。しかし、ナポレオンとかＸＯは単なるコマーシヤル上の呼称で規定はありません。高級ブランデーの世界最大の飲み手は中国人および東南アジアの華僑です。一人当たりの消費量世界一は香港です。

キール・ロワイヤルはクレーム・ト゜・カシスをシャンパンで割った食前酒。ブーブレー（Ｖａｕｖｒａｙ）はロワール地区の甘口の白ワインまたはスパークリング・ワイン。マラガ（Ｍáｌａｇａ）はスペイン南部アンダルシア地方で日干しした葡萄から作るアルコール強化ワイン。コスタ・デル・ソルの観光客の間で有名。

【０５２】

ジョルジュは、かねてから想いを寄せていた メアリーアンと ようやくデートに こぎつけた。下心のあるジョルジュは、食前酒にキール・ロワイヤルを、食事中には ヴーヴレーの極甘口、食後酒には マラガを薦めた。期待通りに メアリーアンは 目元が‘とろん’としてきた。一応 紳士的な振る舞いを見せておこうと ジョルジュは 言った
「メアリーアン、大丈夫かい？ 良いお酒だけを薦めたけれど、飲みすぎはいけないよ。向こうにソムリエが 二人いるだろう？あれが 四人に見えるようになったら 危険だから、その時は、僕に正直に言ってよ。アパートまで すぐに送るからね」
「ジョルジュ、何言ってんのよ。ソムリエは　一人だけよ」